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福岡高等裁判所 昭和35年(ネ)861号 判決 1962年2月27日

理由

一、被控訴人が訴外の福寿融資株式会社から、同会社が控訴人らに対して有する融資債権一七二、四〇〇円及びこれに対する昭和三〇年一〇月五日から完済まで日歩三〇銭の割合による遅延利息債権(当事者弁論の全趣旨によると、この債務は控訴人らの連帯債務であることが明らかである)を、昭和三二年三月二二日譲渡を受け、同年一一月一一日訴外会社から控訴人らに対し債権譲渡の通知がなされたこと、被控訴人が昭和三二年一一月一二日金六、〇〇〇円、昭和三三年八月二八日金三六、三六五円計四二、一六五円の弁済を受けたことは当事者間に争がない。

二、控訴人らは右二口の計金四二、三六五円はいずれも元金の内入れとして入金されたと主張し、被控訴人は事実らんに示すとおり遅延損害金に充当すると主張するので考えるに元金とその遅延利息債務を負担する債務者が総債務を完済するに足らない金額を給付した場合において、同給付が元金の弁済に充当されたとするには、(1)かかる場合当事者間に予じめ元金の弁済に充当される旨の特約があるか、(2)弁済について債権者と債務者とが元金に充当することを合意するか、(3)債務者が元金に弁済する旨の意思表示をなすか、(4)債権者においてその旨の意思表示をするかのいずれかの事実が存しなければならない。換言すれば右四つのいわゆる意思表示による弁済充当の事実が認められないときは、給付金員は法定充当により、先ず遅延利息債務の弁済に充当され、残余があれば元金債務の弁済に充当さるべきである。ところで、本件において前示金四二、三六五円が右の(1)ないし(4)の内のどれかに当る意思表示によつて元金債務の弁済に充当されたというなんらの証拠がなく、当審被控訴本人尋問の結果によれば、右(1)ないし(4)による元金の弁済に充当されなかつたことが認められるので、右金四二、三六五円は元金一七二、四〇〇円に対する昭和三〇年一〇月五日以降昭和三一年六月までの利息制限法の定める最高利率年三割六分(右金一七二、四〇〇円が貸付元金二〇万円の残元金であることは成立に争のない甲第一号証「同号証が控訴人らのいうように強要によつて作成されたという証拠はない」により明らかであり、右貸金債権が現行利息制限法の適用を受けるものであることは、当事者弁論の全趣旨によつて認める。)の割合による遅延利息債務の弁済に法定充当さるべきであることが認められ、したがつて元金の弁済に充当さるべき金額のないことは計算上明らかであるから、被控訴人の請求するとおり、控訴人らは連帯して被控訴人に対し、金一七二、四〇〇円及びこれに対する昭和三一年七月一日以降年三割六分の割合による遅延利息を支払うべきである。

三、ところが控訴人らは、控訴人伊藤芳男は昭和三四年三月一〇日訴外林三枝子改め江島素恵から、同人が福寿融資株式会社に対し有する二口計一七五、〇〇〇円の融資債権を譲り受け、同年九月二八日被控訴人に対し、江島素恵から債権譲渡の事実の通知をなし、控訴人伊藤芳男より右譲受債権をもつて、被控訴人の本訴請求にかかる債権と対当額について相殺する旨の意思表示をなしたので、控訴人らの債務は消滅したと抗弁し、成立に争のない乙第一号証の二、各その方式及び趣旨と原審証人江島素恵の証言を総合し成立を認める乙第一号証の一(ただしこの文書の郵便局作成部分は成立に争がない)、乙第二号証の一、二、右証言を合わせ考えると、江島素恵は前記訴外会社に対し(一)昭和三一年一一月二一日金四五、〇〇〇円を、弁済期昭和三二年二月二一日、利息日歩五銭(二)昭和三二年七月六日金一三万円を、弁済期同年九月六日、利息日歩五銭の約で貸しつけた貸金債権を有し、この債権を元利とも、昭和三四年三月一〇日控訴人伊藤芳男に譲渡したこと、同年九月二八日江島素恵が被控訴人に対しその譲渡通知をなしたことが認められるところ、債権譲渡の通知は譲渡人(江島素恵)から債務者(訴外会社)に対してなすべきもので、(訴外会社に対しなしたという主張も証拠もない。)同訴外会社から控訴人らに対する債権を譲り受けた被控訴人に対して、債権譲渡の通知をしても、その効果を生ずるものではないので、控訴人らは、譲渡人である江島素恵以外の者に対しては、自己が債権者であることを主張し得ないものというべきであるから、控訴人伊藤芳男は自己が譲受債権の債権者であることを被控訴人に対して主張し得ないのでこれを主張しうることを前提とする控訴人らの相殺抗弁はすでにこの点において失当である。

四、もつとも、訴外江島素恵が昭和三四年三月一〇日控訴人伊藤芳男に債権譲渡をなした際、同訴外人が訴外会社に対し債権譲渡の通知をなした事実があるとしても、訴外会社が控訴人らに対して本訴債権譲渡の通知をなしたのは、前認定のとおり昭和三二年一一月一一日であるところ、民法第四六八条第二項の規定によれば、債権の譲渡があつた場合、債権譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者はその通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもつて譲受人に対抗することができることが明らかであるが、同条項の反対解釈上、譲渡の通知を受けた後に生じた事由をもつては債権譲受人に対抗できないものというべきであるところ、これを本件について見るに、控訴人らが債権譲渡人たる訴外会社から債権譲渡の通知を受けた日時は前説示のように昭和三二年一一月一一日であるから、同日までに訴外会社に対して生じた事由をもつて譲受人たる被控訴人に対抗し得るけれども、同日後の昭和三四年三月一〇日に生じた江島素恵よりの債権譲受及び譲渡通知によつて生じた控訴人伊藤芳男が訴外会社に対して債権を有するという事由をもつては、同会社の債権譲受人たる被控訴人には対抗し得ないといわなければならない。

要するに控訴人伊藤芳男の相殺の主張、したがつて控訴人らの前示抗弁は理由がない。

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